カルロス・ゴーンの逃亡、イランとアメリカの対立、新型コロナウイルスの感染拡大……。新年を迎えてまだ1カ月強にもかかわらず、2020年は“事件”があまりにも多い年となっている。さらに、20年7月には東京五輪が控え、秋にはアメリカ大統領選挙もある中で、日本の株式市場はどうなるのか。人気アナリストの馬渕磨理子氏が解説する――。

目 次

■LCCの株はなぜ“買い”か

20年の株価は、全体としては一時的な冷え込みを見せるものの、回復するというのが私の見方です。キーワードは、「経済対策26兆円」「セキュリティ業界」「アメリカ大統領選挙」「5Gの本格化」「五輪特需」の5つです。順番に説明します。

まず、株価が上がる根拠として、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを停止し、20年7月からは3連続で利下げを行うなどタカ派からハト派に転換していることが挙げられます。現時点では、FRBは追加の利下げはないとの見解ですが、20年1月末のパウエル議長の発言から年内の追加利下げの観測が高まっています。また、トランプ大統領は20年11月の選挙を控えて、景気後退を回避したいはずであり、アメリカ経済の好調は株価を下支えする。さらに、それを強力に後押しするのが日本政府の「経済対策26兆円」です。

■老朽化した各種インフラ設備の改修への支出

このうち、財政支出は13.2兆円。この予算による実質GDPの押し上げ効果は約1.4%と見込まれています。具体的には、高度経済成長期に建設され、老朽化した各種インフラ設備の改修への支出が挙げられます。

この公共投資に加え、19年秋に日本列島を襲った台風19号の被害からの復旧・復興も加わり、土木建設業での受注が増え、景気へのプラス効果が期待されます。具体的な銘柄で言えば、道路や橋梁、河川施設の補強・補修に強い、ライト工業<1926>は注目株といえるでしょう。同社は斜面・法面対策工事と基礎・地盤改良工事をメインとする老舗企業です。

また、インフラの維持・管理体制の整備が急務となっていますが、そのためには膨大な人手とコストが必要とされています。この人手不足問題の解決策として近年凝視されているのが「インフラ点検ロボット」です。

人間が入り込みにくい場所でもロボットが探索し、橋梁や建物の点検を行えるのです。こうしたロボットを作っている日本企業があります。それが、世界初の商用ドローン専業メーカーである自律制御システム研究所<6232>。インフラ整備の事業が増えるほど同社の株価が上昇する見立てです。

続いて株価が動きやすいのが「セキュリティ業界」です。カルロス・ゴーンの逃亡、中東からアメリカへのサイバー攻撃の可能性、さらに東京五輪を控え、先進各国のセキュリティ面を不安視する声が出ています。それは東京都も例外ではありません。東京都の資料によると、東京五輪に必要な民間ガードマンは約1万4000人ともいわれており、かなりの市場となっています。当然、20年はセコム<9735>ALSOK<2331>などのセキュリティ会社の特需が見込まれます。

また、五輪開催による経済起爆剤の本命はインバウンドです。インバウンド関連銘柄は、閉会後も大きな市場を取り続けるでしょう。

これは、中国の武漢を中心に広まっている新型コロナウイルスの影響で大幅に下落している格安航空券の販売会社も例外ではありません。最大手のHIS<9603>はもちろん、ホテルの予約管理システム販売を展開している手間いらず<2477>は、五輪に向けて値を戻す可能性が指摘されます。

なお、上海総合指数は20年1月14日の高値から下落トレンドに転じています。しばらく中国経済の個人消費・小売りにはダイレクトに影響が出るでしょう。その根拠として、03年に香港を中心に流行したSARSの一件が挙げられます。当時、SARSの影響で、中国のGDPは一時的に押し下げられたというデータがあります。今回の新型コロナウイルスでも同じような値動きが見られるでしょう。中国関連株には注意が必要です。

■アメリカ大統領選挙

次に20年11月に行われる「アメリカ大統領選挙」です。過去数十年のデータを見ると、大統領選挙の前年は、最も株価のパフォーマンスがよく、大統領選挙年は微増、選挙翌年はプラスで推移するというデータがあります。つまり、20年から21年に向け、アメリカ株は上昇基調にあると予測できます。

しかし、同時期の日経平均は下落するかもしれません。そこでまずは、20年4~6月期の株高のときにうまく利益確定をするスタンスをとりながら、大きく調整した後の秋以降は、株高に向けて仕込む戦略を取るのが賢明です。

過去のデータを見て予測すると、アメリカ大統領選挙前の秋口に日経平均は2万円を割り込み、年末にかけ2万5000円と1年間を通して約5000円幅での値動きを見せるというのが私の見立てです。

続いて4つ目。「5Gの本格化」です。関連銘柄はかなり上昇すると思われます。というのも、19年日本政府は5G整備への投資額には15%の税額控除か、投資額の30%を経費と見なす特別償却を選べるなど優遇措置を盛り込みました。当然、通信業界各社は5G投資を積極的に進めるでしょう。また、スマホメーカーの5G対応機種発売に合わせて半導体業界、電子部品業界の株価も上昇が期待できます。

5G携帯が普及すれば、コンテンツを持っている企業に強みがあります。19年はソニー<6758>の復権の印象が強い年でした。同社は今やゲーム・音楽・映画などのコンテンツの強みを持つ総合コンテンツ企業となっています。5Gの到来によりソニーのコンテンツ力は魅力をさらに増すでしょう。

さらに、ソニーは半導体事業も堅調です。電子の目といわれる「CMOSセンサー」は世界中のスマホに組み込まれており、同社のCMOSイメージセンサーの世界シェアはなんと50%にも及びます。

そして、ソニーが次なるターゲットとして目をつけているのが、自動車。CMOSセンサーはクルマにも使用されるため、今後さらなる需要の増加が予測されています。

ほかには、アップル関連銘柄として積層セラミックコンデンサを主力とする村田製作所<6981>、5Gの計測通信機器のアンリツ<6754>、システムインテグレーターの伊藤忠テクノソリューションズ<4739>の銘柄も5G銘柄として注目です。

最後が、「五輪特需」。これぞ本命!  と思う方もいらっしゃるかもしれません。が、オリンピック好景気は、株式市場においては19年時点でピークアウトしているといわれています。

とはいえ、世界的イベントが行われると、個人消費は夏場に向けて盛り上がるのは間違いありません。

■6月末で終了する「キャッシュレス還元」

個人消費の分野において、警戒しなければならないのが、20年6月末で終了する「キャッシュレス還元」です。

20年7月以降は実質増税となるため、個人消費の落ち込みは必至となります。また、19年は一部業種で新規求人数が減少に転じています。つまり、企業収益も減益に転じるため、賃金の上昇率は鈍る可能性があります。

これまでの5つのキーワードをもとに、全体的な予測をまとめます。

アメリカ大統領選挙や米中貿易摩擦の再燃の可能性など、未来が読めない外部要因に左右される銘柄の予測はとても難しいので、買いも売りも避けるべきです。特に、どこまで感染拡大が広がるか読めない新型コロナウイルスの問題を抱える中国関連は避けたほうが無難でしょう。

結果、力を入れるべきは「内需株」。これしかありません。日本国内の消費に目を向けると、紳士服の販売で知られるAOKIホールディングス<8214>がエンターテインメント事業として手がける複合カフェ「快活CLUB」の動向にはぜひ注視してください。

同社の見通しによれば23年3月期には、なんとエンターテインメント事業の営業利益がファッション事業を上回るまでに成長するとのこと。「快活CLUB」は19年度、売上高約368億円、436店舗を展開し複合カフェ業界で業界1位の地位を築いています。

さらに内需に目を向けると、人手不足や業務効率化のためのIT投資に積極的な企業に注目してください。特に、今後も増えると予想される分野は、前述したセキュリティや機関業務統合管理、営業支援、顧客管理などのツールを販売する企業。ビジネスに必要なITサービスをフルラインナップで提供するSCSK<9719>はその筆頭です。結局、20年は国内・内需株が一番安全というのが答えなのです。

馬渕 磨理子 構成=鈴木俊之 撮影=横溝浩孝、まつもとこーたろー

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